「 増大する中国の脅威に対して日米韓で対処すべきときに収まらない韓国の反日感情 」
『週刊ダイヤモンド』 2005年3月19日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 584
韓国の新聞「中央日報」の2004年9月の世論調査によると、韓国人のいちばん嫌いな国は日本で41%、次が米国で24.3%だった。興味深いことに、最も見ならわなければならない国も、これまた日本で32.8%。米国の14.3%、中国の9.7%を大きく上回っている。さらにおもしろいのは、最も警戒しなければならない国は中国で44.3%、米国28.8%、そして日本は14.7%となっている。
見ならうべきことは多く、韓国への脅威になる可能性が最も低い日本は、安心な国ではあるけれど、なぜかその日本がいちばん嫌い、という対日観が見えてくる。冷静に考えれば異なる結果が出るかもしれないけれど、日本に対しては冷静になれないでいるのが、韓国人の現状なのだ。
高麗大学の学長まで務めた韓昇助(ハンスンジョ)名誉教授が、雑誌「正論」4月号に「共産主義・左派思想に根差す親日派断罪の愚――日韓併合を再評価せよ」と題して寄稿した論文に関連して、韓国内で厳しく批判された。
韓名誉教授は、「大韓帝国の滅亡と韓日併合はあまりにも韓国民には不幸なことだった」とする一方で、「併合は民族的な不幸ではあっても不幸中の幸いであったのか、それとも不幸そのものであったのか」と問題提起し、「当時の国際情勢と列国との関係がよく理解できれば、韓国が当時のソ連に占拠・併合されなかったことはむしろ幸いであった」などと書いた。
敗戦した日本が、旧ソ連に占領されたり、ドイツのように二分されたりするよりは米国による占領は「むしろ幸いだった」、というのと同じ文脈で述べられている。だが、韓名誉教授の論文全体を批判するのでなく、日本による併合は「むしろ幸いだった」などの表現が問題視されて、氏は七日までに名誉教授の称号辞退に追い込まれたのだ。このことは、先述の韓国人の感情がそのまま反映された結果であろう。
韓国の反日感情は、活火山のマグマのようにわずかの亀裂からも噴き出してくる。3月1日の独立記念日における盧武鉉(ノムヒョン)大統領の演説は、その大半が日本への批判だった。日本は過去の歴史を謝っておらず、賠償もしていないというのだ。日本人拉致被害の数千倍数万倍の被害と苦しみを韓国人は体験させられたとも語っていた。
日本人から見れば、補償と賠償の区別もつかない盧大統領の演説は、外交の素人であり、また「数千倍数万倍」という表現は、北朝鮮が好んで使う表現である。盧大統領の周りには、かつて激しい反政府活動をした左翼運動の学生たちがブレーンとして集まっており、右の北朝鮮的表現は、彼らの影響と見られている。
締結から40年が過ぎた日韓基本条約を否定し、すべてを振り出しに戻すべきだと事実上言うに等しい演説内容は、しかし、韓国内では好評だ。「反日」はまさに求心力を高め、韓国の国民に奇妙な心の満足をもたらす効果がある。
中国が虎視眈々(たんたん)と北朝鮮支配を狙っているとき、韓国が日本を敵視し、米国を敵視することは、韓国と朝鮮半島全体の利益にならない。今こそ、日米韓の緊密な連携で、増大する中国の脅威に対処しなければならないのだが、韓国民の感情はあらぬ方向に噴き出していく。
先の世論調査に44%という数字で示されたように、より大きな脅威は中国なのである。冷静に考えることさえできれば、韓国民も中国問題の深刻さがわかるはずだ。そのような冷静な判断を韓国民に促すためには、日本人が、彼らの感情の爆発を受け止め、気にせず、やり過ごすことが必要なのであろう。両国関係を冷静な協力関係へと導いていくための日本の抑制が、未来を拓くのではないだろうか。